Last modified at 2003/09/10 11:29
- 片道1時間ちょっとの通勤時間、Palmで青空文庫からダウンロードしてきた小説をよく読んでいます。
- これまでは読みっぱなしだったのですが、そうすると内容をすっかり忘れてしまいます。
- (覚えるために読んでいるのではないので忘れるのは問題ではありません)。
- そして、読んだ時に感銘を受けた、その瞬間をないがしろにして、気安くやりすごしてしまったことの後味の悪さだけが残ります。
- それを避けるために読書記録をつけることにしました。
2003.01
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2002.12
- うつせみ(樋口一葉)
- 恋に破れ自殺した男を慕うあまり発狂した名家の一人娘をとりまく人間模様。
- 娘は虚ろなまなざしで周囲の人に「私が悪う御座りました」とひたすら謝るのですが、兄をはじめ身内は誰もがお前は悪くないと答え、付き人たちは「おいたはしき」と同情するのみで、「我々のほうが悪かった」と言う人は一人もいません。
- 文中どこにも書いてませんが、一家のものたちは総出で、娘とその恋人を引き離しにかかったのでしょう。なにしろ名家の一人娘ですから。
- 恋にのぼせた娘を引き離すという行いは一家のものたちにとって、あまりにも当然の行為であって、「我々のほうが悪かった」という発想はどこにもありません。
- 死ねなかった自分をさいなみ「私が悪う御座りました」、周囲の人の〈我々は悪くない、当然だ〉というまなざしに対し「私が悪う御座りました」。
- 原稿用紙にして僅か20枚程度の短編ですが、その中に圧倒的な孤独を描き出しています。さすがはお札になるだけの人物です。
- 長崎小品(芥川龍之介)
- たぶん、舞台は長崎の骨董屋。登場人物は、皿に描かれた異人など。
- 無生物がわいわいするあたり、Toy Story を思い浮かべてしまいます。
- たわいもない話なのですが、なぜか魅き込まれます。
- それもこれも、自分が長崎生まれだからでしょうか。頭に浮かぶのは、あの、薄暗い中華街のひなびた土産物屋。
- 雛(芥川龍之介)
- とある試験勉強をしていたせいで、Palmによる読書はとんとご無沙汰だったのですが、何ぶんものぐさな性格、いいかげん試験勉強にも厭きてきて、ツイPalmを手に取ってしまいました。
- 明治に入って没落した、かつては大名出入りだった商家の話です。
- 寡黙な頑固親父、旧弊から抜け出せないと劣等感を感じる母、逆に西洋実利主義かぶれの息子十八歳、そして主人公の娘十五歳。
- すかんぴんの一家は、とうとう最後に残ったひな人形を横浜の西洋人(おそらくは低俗なヤンキー)に売ることになります。ひな人形がなくなることに娘の心は揺れ、ひな人形を売ることに家族の心も微妙に揺れます。
- 途中までは三文小説じみているのですが、打ってかわってラストはとても美しいです。
- なにもかもが地に足のつかない、拠り所のない時代を凝縮しているかのように、この家族もまた顔の向くところがてんでバラバラなのですが、ある一瞬、偶然にも安らいだ無邪気さが顔を覗かせます。
- 小中学生のころですが、自習時間などでガヤガヤざわついた教室が、ほんの一瞬ですが、(し〜ん)となることがありました。そんなとき「悪魔が通った」と言ったものです。
- この話はさながら「天使が通った」とでもいいましょうか。上出来のスナップ写真のようなお話でした。
- 渋谷家の始祖(宮本百合子)
- 壮絶な話です。
- ただただ壮絶。
- この内容の濃さ、感想をまとめるには、私の許容能力を遥かに超えてます。
- 玄鶴山房(芥川龍之介)
- 肺結核の老人と、それをとりまく寝たきりの妻、凡人の娘婿夫婦、心の歪んだ看護婦、そして誠実で小心な老人の元妾のお話。
- 形式的な主人公は凡人の娘婿夫婦なのですが、メインは老人と元妾の悲哀にあります。
- 死を目前に臆病を隠しきれない老人。相手の家族のことを気遣うあまり決して愛情をストレートに表現できない元妾。
- とくにラストが素晴らしいです。
- 猫車(宮本百合子)
- 宮本百合子の十八番・ダメ人間のオンパレード。
- まずはしみったれで小心者の小地主。老いて株に手を出すも、しみったれで小心者なので損ばかりしています。年を重ねてなお人間としての厚みがこれっぽっちもない、一体この人の人生は何だったのだろうか?、と首をかしげたくなる人が時々いますが、この小地主もそういう人です。
- 次は、親子の情も金でつながっている大地主。年相応の人間的厚みはあるものの、なにか当たり前のことがすっぽり欠落していて、年の重ね方がどこかで間違ってしまったのではないだろうか?、と首をかしげたくなる人が時々いますが、この大地主もそういう人です。
- そんな感じの人たちが、借金だらけの油屋に集います。この油屋の亭主は中風で寝たきり。かわりにカミさんが切り盛りします。亭主の弟で、政治に夢中でろくに稼ぎもない男の妻が居候して、カミさんの手伝いをしています。
- その他、性根の腐った脇役が多数。
- 筋はとくにありません。たとえるなら現実味を加えた「寺内貫太郎一家」のようで、どうしようもないどうしようもなさを味わえます。
- 顔(宮本百合子)
- ルックスがイエス・キリストと瓜二つ(ただし、本人は気づいていない)の少年の話。
- 少年の顔はあらゆる人に敬虔の念を呼び覚まします。そして、少年は(なんでみんなボクにだけよそよそしいんだろう・・)と寂しさを覚えます。
- そして、そういう少年に読者の私が笑います。作者の意図としては疎外の悲劇を描こうとしているのですが、内容が深刻になればなるほど笑いが込み上げてきてしまいます。
- ただ、キリストの顔と言われてもピンときません。喩えるなら、大仏様にそっくりな子供が親しげに語りかけてくる、といった感じでしょうか。・・いや、これは単にオカシイだけです。
- そういえば、「AKIRA」のアキラはどこか今の皇太子殿下に似ているな、と思いました。きっとそんな感じでしょう。
- 鼠小僧次郎吉(芥川龍之介)
- 盗人仲間の二人が、料理屋で交わす雑談。
- 盗人の一人が、旅先で出会った「胡麻の蝿」の巻き起したバカバカしい出来事を話す。なお「胡麻の蝿」とは、一緒に酒を飲んで相手が眠ったところでコッソリ胴巻を頂戴するという、芸のない最下等の盗人の意味。
- 胴巻をとり損ね、宿の人間からボコボコにされて柱に縛られる胡麻の蝿。そこでやけくそになって、俺はすごい悪党なんだぞと啖呵をきり、果てには「俺は鼠小僧だ」とまで言い出す始末。
- 啖呵のバカバカしさと、それを素直に信じてしまう田舎宿の愚直さの掛け合いは、小説というよりは落語のようでした。
- 面積の厚み(宮本百合子)
- 教師の言う「縦×横=面積で、その面積には厚みがない」というのはナゼ、と質問し、そんなの当たり前だろ、と教師に跳ね返されて落ち込む小学生の話。
- 理屈っぽさばかりが鼻につく作品でした。
- 冬(芥川龍之介)
- 入獄している従兄の面会に行く話。
- 何かの政治活動により検挙されたことがほのめかされています。
- 「事件にからまる親戚同志の感情上の問題は東京に生まれた人々以外に通じ悪いこだわりを生じ勝ちだった」というのがテーマのようですが、あまりに状況説明がないため、何がなんだかさっぱり分かりませんでした。
- 戯作三昧(芥川龍之介)
- ひねくれ者・曲亭馬琴のとある一日の生活。
- 先人の天才を崇拝する一方、同時代の人を蔑視する馬琴は、同時に自分もまた自分が蔑視しているところの一人に過ぎないのではないか?という不安に始終苛まれている。八犬伝を表では賞賛し裏では酷評する二枚舌の軽薄な読者にうんざりし、軽蔑する板元の口車に一瞬でも気を取られて気落ちしたり、そういうイライラがつのって筆が進まず、たまたま手に取った水滸伝のすばらしさに圧倒されて自信をなくしたり。
- あまりにも人間くさい馬琴に対する、芥川の並々ならない愛情が感じられる佳作でした。
2003.01
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2002.12
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