Last modified at 2004/02/07 12:23 
間違いを見つけた有識者のみなさま、こちらまで御一報いただければ幸いです。

伊都満底草 巻の一

伊都満底草について
修正履歴
1
【原文】
  1. この草紙をかく名づけたるは、ある人の、おこと等はなとて、かくいつまでも、うつけたる事のみ好めるにやと、詰りしことのありけるを、思い出しまま、かく定めけるになむ。
  2. 乙丑の元日何となく春の声する高どのに、誰そののあるじしるす。
【口語】
  1. この草紙をこう名付けたのは、ある人が「そなたらはなぜ、こういつまでも、くだらぬことばかりしているのか」となじったことがあったのを思い出して、それをそのまま名前に、という次第。
  2. 一八六五年元日、なんだか春の声がする高殿にて、誰園の主しるす。
【メモ】
2
【原文】
  1. ○元日朝またぎより例の人々唯好のもとにつどひける折扇にものかけとありければ
  2.   田子の浦人
  3. 青柳を東風の相手定めけ
【口語】
  1. ○元日の朝から昼にかけて、例の人々が唯好のもとに集った折、扇に何か描いてくれとあったので
  2.   田子の浦人
  3. 芽吹いて青々とした青柳が春の東風にゆられる絵柄にしたのである
【メモ】
3
【原文】
  1. ○年毎のためしなれど、去年のくれはことさらに恐ろしげなる鬼どものいで来て、ふくろの物みな奪ひ去にければ、この春淋しく覚へてかくはよみける
  2.   ただ好の朝臣
  3. 梅桜いかに咲ともやま吹のはななき宿は淋しかりける
【口語】
  1. ○毎年のことながら、去年の暮れはことさら恐ろしい鬼たちが出てきて、財布の中身をみな奪い去っていったので、この春はふところが淋しくなってこう詠んだ。
  2.   ただ好の朝臣
  3. 梅や桜がいかに咲き誇っていても、山吹の花がない家というのは淋しいものだ
【メモ】
4
【原文】
  1. ○おなじ年の元日つとめて起出けるおりよめりける
  2.   柳の屋のあるじ春影
  3. 麗麗と匂ふ朝日の影みれば今年も春は長閑なるべし
  4. なをいかばかりうかれありきつらん、おぼつかなしや
【口語】
  1. ○同じ年の元日、早朝に起き出た折に詠んだ。
  2.   柳の屋のあるじ春影
  3. うららかに美しく映える朝日の影を見れば、今年もきっと春は穏やかにちがいない
  4. いつになったら足元がしっかりするのだろう。おぼつかないことだ。
【メモ】
5
【原文】
  1. ○かつていひよりける女の、おとこをば子日の松と同じさまに引つつ遊ぶ心のありて、いといとにくければ、今年は逢まじと思い定めて、春のはじめ消そこのはしにかきて遣はしける
  2.   ただ好の朝臣
  3. 我宿に黄金なるてふ樹を植て花さく後は逢んとぞ思ふ
【口語】
  1. ○以前自分に言い寄ってきた女は、男を子の日の松と同じように引っぱってきて遊ぶのが好きで、とてもとても腹が立つので、今年は逢うまいと心に決めて、春の初め手紙の端に書いて送った。
  2.   唯好の朝臣
  3. 我が屋に黄金が実るという樹を植えて、その花が咲いた後に逢いましょう
【メモ】
6
【原文】
  1. ○恋の歌よみける中に
  2.   寝覚の早樹
  3. とり かねも絶ず聞えて嬉しきはみ山隠れぬ我身なり鳧
【口語】
  1. ○恋の歌を詠んだものの中に
  2.   寝覚の早樹
  3. 叩き鉦までもが絶えることなく聞こえてきて、それに喜んでいるのはだれかといえば、山奥深くに隠遁している我が身なのだ。
【メモ】
7
【原文】
  1. ○春のあしたよめる
  2.   栗のやの伊賀麻呂
  3. つくはねの落てはあがる中空に
  4. 猶(またイ)いとけなき春は来にけり
【口語】
  1. ○春の朝に詠んだ
  2.   栗のやの伊賀麻呂
  3. はねつきの羽が空から落ちてはまた空へ上がる
  4. いよいよ(まったく)あどけない春が来たのだ
【メモ】
8
【原文】
  1. ○むかし契りし人に読で遣はしける
  2.   早樹
  3. いかにせむ人の園生の姫小松ひくも心の儘ならぬ身は
【口語】
  1. ○むかし契りを結んだ人へ、歌を詠んで送った。
  2.   早樹
  3. どうしたらいいのだろうか、いまやあなたは他人様の庭で子の日の遊びに興じているが、それに加わりたくともできない身の私はいったい
【メモ】
9
【原文】
  1. ○題しらず
  2.   春影
  3. とり立岸の岩根の姫小松かねとせの陰はみに鳧
【口語】
  1. ○無題
  2.   春影
  3. 岸辺の岩の根本に姫子松が独り立っている。樹齢は千年以上のようだ。
【メモ】
10
【原文】
  1. ○唯好のもとにてよめる
  2.   さかきたか村
  3. 今日もまた涎たらしてすぎにけり
【口語】
  1. ○唯好のそばで読んだ
  2.   榊篁
  3. 今日もまた涎たらして過ぎにけり
【メモ】
11
【原文】
  1. ○榊たか村の問けるは、古よりいまだたれを竹帛にしるす事をきかずと。其折早樹の、古人いはずや功名を竹帛にたるる、と答へしかば
  2.   苫屋の千鳥
  3. 竹帛にたれてうれしき浮名かな
【口語】
  1. ○榊篁が問うには「むかしから、誰かさんのことが書物に記してあるというのをまだ聞いたことがないのだが、どうか」。そのとき早樹が「その古人ならいうまでもなく、功名話を書物にたれている」と答えたので、
  2.   あばら屋の千鳥
  3. 書き物に垂れて嬉しき浮き名かな
【メモ】
12
【原文】
  1. ○ある園の梅を見てよめる
  2.   靡糸
  3. 夜は風につてな忘れそ梅のはな
【口語】
  1. ○ある園の梅を見て詠んだ
  2.   靡糸
  3. 憂いを聞きつけた梅の木は、風に乗って一夜のうちに、遙かかなたの主のもとへ馳せ参じるという。梅の花よ、私のことづても決して忘れないでおくれ。
【メモ】
13
【原文】
  1. ○新撰長恨歌 録三
  2.   喫霞仙客
  3. いろになるみの襦袢もぬいで
  4.   春寒賜浴華清池。温泉水滑洗凝脂。
  5.     すはだ自慢の夏の富士
  6. まつにしのんで夜長の秋を
  7.   遅々鐘鼓初長夜。耿々星河欲曙天。
  8.     あかしかねたる床のうち
  9. 義理をかいてもかうなるからは
  10.   在天願作比翼鳥。在地願作連理枝。
  11.     あくまで女房にもつこころ
【口語】
  1. ○新撰長恨歌 録三
  2.   喫霞仙客
  3. お似合い三幅襦袢も脱いで
  4.   春の寒きに浴を賜る華清の池。温泉水滑らかにして凝脂を洗う。
  5.     素肌自慢の夏の富士
  6. こらえて待ってる夜長の秋を
  7.   遅々たる鐘鼓の初長夜。光々たる星河が曙天を欲す。
  8.     明かすつもりが夢の中
  9. 義理を欠いてもこうなれるなら
  10.   天にあって願うは比翼の鳥。地にあって願うは連理の枝。
  11.     いつでも女房を思ってる
【メモ】
14
【原文】
  1. ○恋の歌よめと人のいひければ
  2.   唯好の朝臣
  3. 我か恋はすまの浦半のとも かよふ浪路の関守や誰
【口語】
  1. ○恋の歌を詠めと言われたので
  2.   唯好の朝臣
  3. わたしの恋とは須磨浦の千鳥の群れのよう。鳴き声で眠れない関守は誰であろう。
【メモ】
15
【原文】
  1. ○早樹によみて贈りける
  2.   春影
  3. 鯨とる舟人きくやみくまのの浦半の月に なくこゑ
【口語】
  1. ○早樹に詠んで贈った
  2.   春影
  3. 熊野灘で鯨をとる船乗りは聞いたのだろうか、須磨浦の月に千鳥が鳴く声を
【メモ】
16
【原文】
  1. ○春の夕早樹のもとへ消息遣はすとて
  2.   唯好朝臣
  3. かくばかりうるさき物としらざりき
  4. をのこばかりの国や尋ねん
【口語】
  1. ○春の夕べ、早樹のもとへ手紙を送るといい
  2.   唯好朝臣
  3. 女の声がこんなにうるさいものだとは知らなんだ
  4. 男ばかりの国を訪ねたいものだ
【メモ】
17
【原文】
  1. ○かへし
  2.   早樹
  3. 世のなかにおなごはかりの国もかな
  4. うるさき物は男なりけり
【口語】
  1. ○返事
  2.   早樹
  3. 世の中に女ばかりの国はないものだろうか
  4. やかましいのは男のほうだ
【メモ】
18
【原文】
  1. ○同じ折消息のはしに
  2.   早樹
  3. いせの海灘波の橋の河風に友まどはせて なくなり
【口語】
  1. ○同じ手紙の端に
  2.   早樹
  3. 伊勢の海から吹いてくる難波の橋の川風にのって、友をたぶらかす女たちの声が聞こえてくる
【メモ】
19
【原文】
  1. ○春の歌よみけるなかに
  2.   春影
  3. 岩根ふみあこかれ出て百 さへつる山の梅や尋ねん
【口語】
  1. ○春の歌を詠んだ中に
  2.   春影
  3. 岩根をふみながら山中を彷徨し、千鳥の群がさえずる山の梅を訪れよう
【メモ】
20
【原文】
  1. ○花のもとに人々つとひける折よめる
  2.   遁崙居士
  3. 手の長き人はなけれどはなの下長き友垣あそふ春の日
  4.  評者云女には手の長き人も少からぬにや
【口語】
  1. ○花のもとに人々が集まっている折に詠んだ
  2.   遁崙居士
  3. 手の長い人はいないが鼻の下の長い友達が遊ぶ春の日
  4.  評者が言うには、女には手の長い人も少なくないとのこと
【メモ】
21
【原文】
  1. ○述懐の歌よみけるなかに
  2.   唐通居士
  3. 大任を下すつもりか積りなら我も其気で一がまんせむ
  4.   唯好朝臣
  5. 大任を下さば下せそれまでは我もゆるりと一ね入せむ
  6.   早樹
  7. 大任を下さば下せくだすとも狸ね入りの我れは動かず
  8.   伊賀麻呂
  9. 大任も屎もへちまもいる物かモ子ーの外は我は動かじ
【口語】
  1. ○愚痴の歌を詠んだ中に
  2.   唐通居士
  3. 大任を下すつもりなのか。そのつもりなら私もその気でもうすこしだけ我慢しよう。
  4.   唯好朝臣
  5. 大任を下すのだったら下せ。それまでは私もゆるりとひと寝入りしよう。
  6.   早樹
  7. 大任を下すのだったら下せ。でも狸寝入りの私は任務を果たさない。
  8.   伊賀麻呂
  9. 大任もクソもヘチマもいるものか。マネーをのぞいて私は動くまい。
【メモ】
22
【原文】

○春興

  1.   喫霞仙客
  2. 江村宜散歩。正是暮春天。花発多風雨。天公不雨銭。
  3. 訳云 花のさかりに同しくならは。かねが天から降ばよい
  4.   小林氏
  5. 散歩開花節。江村欲暮天。一瓢傾尽後。不復恨無銭。
  6. 訳云 花の夕へに酔たる跡は。かねがなくても面白い
  7.   無趾仙
  8. 何時能散歩。困臥落下天。嗟彼蒼々者。奪吾脚与銭。
  9. 訳云 花の三月達磨で困る。あしとおあしがあればよい。
【口語】

○春の興

  1.   喫霞仙客
  2. 江村氏、散歩を宜しくす。正に是れ暮春の天。花は芽吹いて雨風多し。天は銭を降らさず。
  3. 解説によれば、花の盛りに同じく降ってくるのなら、お金が天から降ればよい
  4.   小林氏
  5. 散歩の開花の節、江村氏暮天を欲す。ひょうたんを傾け尽くし後、復た銭なきを恨まず。
  6. 解説によれば、花の夕べに酔ったあとは、金がなくても面白い
  7.   無趾仙
  8. 何時も能く散歩す。困臥し下天に落ちる。あらあらと老人が、自分の脚と銭とを奪っていった。
  9. 解説によれば、花の三月は達磨では困る。あしとおあしがあればよい。
【メモ】
23
【原文】
  1. ○嚢中自ら銭のなくなりにければ
  2.   遁崙
  3. 鍋釜にかなけばかりの世たいかな
【口語】
  1. ○財布に金がなくなったので
  2.   遁崙
  3. 鍋と釜にしか金っ気のない世帯だなあ
【メモ】
24
【原文】
  1. ○いたづらに過しを恨みて
  2.   早樹
  3. とりとめぬ物としりつつ年月を仇に契りて我は過にき
【口語】
  1. ○むなしく過ぎるのを恨めしく思い
  2.   早樹
  3. (表の意)ひきとめられないと知ってはいながらも寄る年月を仇と決め、そうこうしているうちに私は老いてしまった。
  4. (裏の意)とりの心を射止められはしないと分かっていながら、自分はまだまだ若い、と思って私は過ごしている。
【メモ】
25
【原文】
  1. ○同じこころを
  2.   唯好
  3. 言よるも遠山とりのしたり尾の長き月日を仇に暮しつ
【口語】
  1. ○同じ思いを
  2.   唯好
  3. 言い寄ってはみたものの、山鳥の長く垂れた尾のような長い月日を恨めしく思いながら暮らしている。
【メモ】
26
【原文】
  1. ○おなじ心を
  2.   春影
  3. しばしだに手なるとならばからとりの立んうき名もおしからなくに
【口語】
  1. ○同じ思いを
  2.   春影
  3. しばしの間だけでも馴ついてくれるのであれば、唐鳥が飛び立つような浮き名が立とうとも惜しくはないのだが
【メモ】
27
【原文】
  1. ○すてられしを恨みてよめる
  2.   千子
  3. 里行く身をば思はでひばり毛ののみいかで人のめづらむ
【口語】
  1. ○捨てられたのを恨んで詠んだ
  2.   千子
  3. 一日に千里を駆けるその力を思えばこそ、人はヒバリ毛の馬だけを愛でるのだ。
【メモ】
28
【原文】
  1. ○むかし男ありけり。ある友のもとより、いとあざやかに粧ひし佩楯てふ物をかりて、久しくとどめ置けるに、其友よりかへせとの消息ありければ、ひつのうちより取出て、きぬにつヽみにけるを、はした女のかいま見て、いち早く男の側女にさヽやきていふ様。
  2. あるじの君はいづこよりか、いとはでやぎし錦織の帯一すじとヽのへ給ひぬ。思ふにうたひ女に、そと贈り給ふなるらめと、うらやみ心に口さがなく語りしかば、その側女日ごろ野辺の若草つのぐむをのみ、明暮の楽みとなせしおな子なりければ、そは口惜しといひつヽ、おのが胸も、かきさばくばかりのけしきして、あるじ何こヽろなく、おことはなにとてかくは息つきあへず、はしり廻り給ふにやと問ふに、なに事とはおこがまし、此きぬのうちこそ、いとも腹たヽしやとて、きぬかなぐりすてヽ見れば、こはいかにおのれもかつてみしらぬ物の具にてありければ、あまりに興醒て、はては笑に堪兼て、ころびありきにけり。
  3. その折あるじの口すさみけるとて人の伝へける。
  4.   白黒の色目もわかぬはした女に
  5.   おどされたりや佩楯の糸
【口語】
  1. ○むかしある男がいた。ある友から、とても鮮やかに飾られた佩楯という物を借りて、長いあいだ家に置いていたところ、その友から「返してくれ」という手紙がきたので、櫃の中から取り出して、絹に包んでいたところ、その光景を端女が垣間見て、すぐさまその男の側女のところに行ってこうささやいた。
  2. ご主人さまはどこかから、とても華麗な錦の帯を一本お求めになっておいでです。思うに歌妓へ、こっそり贈られるのではないかと、嫉妬心から口悪く語ったところ、その側女は日ごろ野原の芽吹いた若草だけを、日中の楽しみとしていた女だったので、じつに悔しいと言いながら、自分の胸も、張り裂けんばかりの様子で、主人がなにげなく、おまえはどうしてそんなに息をきらして、走り回っているのですかと尋ねると、何事とはおこがましい、この絹の中身ときたら、実に腹立たしいと、絹を乱暴に剥ぎ取って中を見てみれば、これはまったく自分もいままで見たことのない物だったので、あまりに気が抜けてしまい、果ては笑いすぎて、まともに歩くこともできなくなってしまった。
  3. その折主人が口すさびに詠んだ一句と伝えられる。
  4.   白と黒の区別もつかない端女ごときに
  5.   佩楯の糸がおどされたのだ
【メモ】
29
【原文】

○聞社友携四佳人遊江東書之以奇   鴨斎主人 文壇若卜春遊地。好鳥啼辺芳草繁。

【口語】
  1. ○社友、四佳人を携え江東に遊ぶと聞く。之を書して以て奇とす。(社友が四人の美人を引き連れて江東に遊んだ、と聞いた。そのことを書いて珍しいことだと思った)
  2.   鴨斎主人
  3. 文壇若し春の遊地を卜(与う)れば、好鳥啼き辺りは芳草が繁る。(文壇にもし春の遊地を与えれば、カモが鳴き、辺りには芳草が生い茂る)
【メモ】
  1. 「文壇」は句会ほどの意味でしょう。
  2. 内容自体は、芸妓などに囲まれてカモにされる、というだけの句ですが、「好鳥啼」「辺芳草繁」という字面がなんとものどかな感じを与えます。
30
【原文】
  1. ○古事記〈ふることふみ〉曰此天皇〈スメラミコト〉あめの下しろしめしき○素戔鳴尊〈ソサノヲノミコト〉くそまきちらし給ひき○きたなき物奉つるとみて大けつ姫をころし給ひき○などいふ古語ありしかるに今の世にも猶さまヽヽの尊たち天くだり給ひて。あやしくくしきことどもすくなからず。そのうちにわきてとふとむべきことを次にしるす。
  2.   放屁安姫命〈ヒリヤスヒメノミコト〉
  3. きたなき物たてまつりてくそまりちらし給ひき
  4.   箱屋傘主尊〈ハコヤカラカサヌシノミコト〉
  5. 駒姫のみとにめでヽ天のさか鉾を下し給ひき
  6.   秋水穂尊〈アキノミヅホノミコト〉
  7. こがね姫がきたなき物奉らぬといひて。ヒスまりちらし給ひき
  8.   化雷電尊〈バケイカヅチノミコト〉
  9. 日なし姫にむかひて天皇我〈スメラガ〉勅命乎〈オホミコトノリヲ〉聞食止宣比〈キコシメセトノタマヒ〉き
  10.   木戸護尊〈キドマモリノミコト〉 一本 御木戸守男尊〈ミキドモリオノミコト〉ニ作ル
  11. あまのふみかき姫のきたなきものしろしめしき
  12.   不得睡尊〈子カサズノミコト〉
  13. とこ闇に天の火柱を振たてましましき
  14.   角出姫命〈ツノデヒメノミコト〉
  15. きたなき物(一本錦ノ御帳ニ作ル)たてまつると見てあまの大角をはやし給ひき
  16.   衣濯姫尊〈キヌスヽギヒメノミコト〉
  17. 八ッひら主〈ぬし〉の尊より十握剣〈トツカノツルギ〉を授かり給ひき
  18.   千日詣尊〈チタビマウデノミコト〉
  19. きたなき物たてまつれといひて興津姫〈ヲキツヒメ〉を抱き給ひき
【口語】
  1. ○古事記に曰く。天皇〈すめらのみこと〉が天の下をお治めになられていた頃のこと。素戔鳴尊〈すさのをのみこと〉は糞をおまき散らしになられた。汚物を献上されるや今度は大尻姫をお殺しになられた。 そんな古話がある。いっぽう今の世にもまた様々の神々が天をお下りになられて、けしからぬ奇異なことをなさることが少なくない。そのうちにとりわけ尊ぶべきことを次に記す。
  2.   放屁安姫命〈ひりやすひめのみこと〉
  3. 汚物を奉り糞をおまき散らしになられた
  4.   箱屋傘主尊〈はこやからかさぬしのみこと〉
  5. 駒姫だけをとにかく愛でて天の逆鉾を下された
  6.   秋水穂尊〈あきのみづほのみこと〉
  7. こがね姫が「汚物を献上します」と言ってピスをおまき散らしになられた
  8.   化雷電尊〈ばけいかづちのみこと〉
  9. 日なし姫に向かって天皇が勅命をお聞きなさいと仰った
  10.   木戸護尊〈きどまもりのみこと〉 一本 御木戸守男尊〈みきどもりおのみこと〉に作る
  11. 天の文書き姫が汚いことをお記しになられた
  12.   不得睡尊〈子カサズノミコト〉
  13. 永遠の闇の中で天の火柱をお振り立てになられた
  14.   角出姫命〈つのでひめのみこと〉
  15. 汚物(一本錦の御帳で作る)を献上されたようで、天の大角をお生やしになられた
  16.   衣濯姫尊〈きぬすすぎひめのみこと〉
  17. 八ッ平主の尊より十握剣をお授かりになられた
  18.   千日詣尊〈ちたびもうでのみこと〉
  19. 汚い物を献上せよと言って興津姫をお抱きになられた
【メモ】
31
【原文】
  1. ○百化新語抜粋
  2.   蓋係追記
  3. 蜆化して河豚となる 評曰あきれる哉 Ta
  4. 蝶々化してさヾゐとなる 評曰こまる哉 T
  5. 龍化して鯨となる 評曰まだ売レない哉 K
  6. 涎化してしい〈小便〉となる 評曰やけなる哉 W
  7. 涙化してはな〈纒頭〉となる 評曰かなしい哉 F
  8. ゲール〈Girl〉化してゲロヽヽ〈鼻涕〉となる 評曰おそれる哉 Y
【口語】
  1. ○百化新語抜粋
  2.   蓋係追記
  3. シジミが化けてフグとなる 評に曰く、あきれる哉 Ta
  4. 蝶々が化けてサザエとなる 評に曰く、こまる哉 T
  5. 龍が化けて鯨となる 評に曰く、まだ売れない哉 K
  6. よだれが化けて小便となる 評に曰く、やけなる哉 W
  7. 涙が化けて祝儀となる 評に曰く、かなしい哉 F
  8. ガールが化けてゲロゲロとなる 評に曰く、おそれる哉 Y
【メモ】
32
【原文】
  1. ○世はうたてきものとかこちて
  2.   唯好朝臣
  3. 咲く花は数々あれど世のなかに色あるものは桜山吹
【口語】
  1. ○世の中は非情なものと嘆いて
  2.   唯好朝臣
  3. 咲く花は数々あれども世の中ですばらしいのは金吹雪
【メモ】
33
【原文】
  1. ○酔後口占
  2.   鎖春仙史
  3. 満地香風占春。一簾微雨呼人。世間休問神仙趣。畢竟神仙属此身。神仙指浦島
【口語】
  1. ○酔後の口裏
  2.   鎖春仙史
  3. 満地の香風、梅春を占す。一簾微雨、鳥人を呼ぶ。世間問うて休〈め〉でる神仙の趣き。畢竟、神仙は此身に属せり。神仙、浦島を指す(あたり一面に風が梅香がただよい、梅がこの春を支配している。霧雨の中、すだれが一枚ゆれ、中から鳥が人を呼んでいる。人々はふと立ち止まって顔を見合わせ、その神仙の情趣のすばらしさを褒めている。とどのつまり、神仙がその身に宿っているのである。ちなみに神仙が呼んでいたのは浦島である。)
【メモ】
34
【原文】
  1. ○六柱神御意向祓〈ムハシラノカミタチノミコヽロユキノハライ〉
  2.  高天原仁神止利麻須〈タカマノハラニカミトヾマリマス〉
  3.  八百万御器主尊者日成姫仁古記事語里聞勢給比而新仁穢記物奉羅勢武比思比宣比記〈ヤヲヨロヅノミウツハヌシノミコトハヒナシヒメニフルキコトカタリキカセタマヒテアラタニキタナキモノタテマツラセントオモヒタマヒキ〉
  4.  神楽女御器護尊者高麗姫仁絶約乎渡志九十万之事遠打捨而唐鳥之翼遠下筵仁為武登農美思比給比記〈カグラメノミウツハモリノミコトハコマヒメニコトヾヲワタシクソヨロヅノコトヲウチステヽカラトリノツバサヲシタムシロニセントノミオモヒタマヒキ〉
  5.  御木戸護男尊者黄金白銀遠始女登志種々之宝遠聚而文姫登御歌謡和武登思比給比記〈ミキドモリオノミコトハコガ子シロカ子ヲハジメトシクサヾヽノタカラヲアツメテフミヒメトミウタウタワントオモヒタマヒキ〉
  6.  仲殿主尊者遠津相模宮仁在須皇后遠近津下総之宮仁移志奉羅武登思比給比記〈ナカドノヌシノミコトハトホヅサガミノミヤニマシマスオヽギサキヲチカツシモツフサノミヤニウツシタテマツラントオモヒタマヒキ〉
  7.  御永屋伯父男尊者皇子三柱之神遠猛記神登為志次仁衣濯之媼仁侍礼給波武登思比給比記〈ミナガヤノオヂオノミコトハミコミハシラノカミヲタケキカミトナシツギニキヌスヽギノウバニカシヅカレタマハントオモヒタマヒキ〉
  8.  駝惰羅遠尊者八百万女神遠神集仁集女給比神測仁測里給比彼方此方仁放尿散志給波武登思比給比記〈ダヽラヲノミコトハヤホヨトヅノメガミヲカミアツメニアツメタマヒカミハカリニハカリタマヒカナタコナタニユバリマリチラシタマハントオモヒタマヒキ〉
  9.  此六柱神者国津大御宝遠如山生勢武登思比給比記〈コノムハシラノカミハクニツオホミタカラヲヤマノゴトウマセントオモヒタマヒキ〉
  10.  此御意向遠天地之神会比給比而小男志花之八津之御耳遠振立而聞食止申須〈コノミコヽロユキヲアメツチノカミツドヒタマヒテサヲシカノヤヅノオンミヽヲフリタツテキコシメセトモース〉
  11. 鼻撫宿祢〈ハナナデノスク子〉敬白
【口語】
  1. ○六柱神御意向祓〈むはしらのかみたちのこころゆきのはらい〉
  2.  高天原に神々が留まっております。
  3.  八百万の御器の主さまは、日なし姫に古えのことを語り聞かせになられ、新たに穢い物を献上させようと思いになられた。
  4.  神楽女の御器の護人さまは、高麗姫に離縁状を渡し、九十〈くそ〉万の事を打ち捨て、唐鳥の翼を上筵の裏地にしようとだけお思いになられた。
  5.  御木戸の護男さまは、黄金白銀をはじめとして、種々の宝をあつめて文姫と御歌を謡おうとお思いになられた。
  6.  仲殿の主さまは、遠く相模宮にまします皇后を近くの下総の宮にお移しいたそうとお思いになられた。
  7.  御永屋伯父男さまは皇子三柱の神を猛き神にして、次に衣濯の媼のところで世話になりたいとお思いになられた。
  8.  駝惰羅さまは八百万の女神を集めに集めて、狙いを定めに定めてあちらにもこちらにも尿をまき散しになりたいとお思いになられた。
  9.  この六柱の神は国つ大御宝を、山のように生ませしめんとお思いになられた。
  10.  天地の神が集いになられて、この御意向を、牡鹿の八つの御耳を振り立ててお聞きなさいともーされた。
  11. 鼻撫宿祢〈はななでのすくね〉敬白
【メモ】
(参考)吉田神道祓祓詞
35
【原文】
  1. ○椋鮭説 本草綱目云椋鮭者鮭之牡也
  2. 椋鮭者。大魚也。産於南海。其色白而美。形如大鼓頭生毛髪。其声類絃。性好遊泳。好食螺貝。及其老大能噛小駒。竟化而為鳥。荘子所謂北溟之鯤。化而為鳥。徒於南溟者。則指此魚耶。
【口語】
  1. ○椋鮭説 本草綱目によれば椋鮭は鮭のオスである
  2. 椋鮭は大魚なり。南海に産す。その色は白くて美、形は大鼓のごとく、頭に毛髪を生やし、その声は絃楽に類する。性は遊泳を好み、好んで巻き貝を食す。その老熟に及んでよく小馬を噛む。ついには化して鳥と為す。荘子のいうところの北溟の鯤、化して鳥と為し、南溟を歩むは、すなわちこの魚の指や。
【メモ】
36
【原文】
  1. ○唯好の許へ消息のはしに
  2.   春影
  3. 千たひ来れとも足さへとめずのきの燕歟影はかり
  4. 風に柳のすなほなぬしにすねる桜の気がしれぬ
【口語】
  1. ○唯好宛ての手紙のはしに
  2.   春影
  3. 千度も来たのに足さえ止めず、まるで軒先の燕のように、気づいた時にはもう影しかない。
  4. 風の吹くがままにゆれる柳のように素直なあるじだというのに、すねる桜の気がしれない。
【メモ】
37
【原文】
  1. ○五月雨ふる比よめる
  2.   早樹
  3. から傘の末広かりし借金をいつかすほめん五月雨の比
【口語】
  1. ○五月雨の降る日に詠んだ
  2.   早樹
  3. から傘のように末広がりになってしまった借金を、いつかはすぼめよう、そう思った五月雨の日
【メモ】
38
【原文】
  1. ○戯によめりける
  2.   唯好
  3. 世の中を屁とも思はぬ連中はPとBとで日を暮すなり
【口語】
  1. ○たわむれに詠んだ
  2.   唯好
  3. 世の中を屁とも思わぬ連中はPとBとで日を暮すなり
【メモ】
39
【原文】
  1. ○戯寄柳月両先生
  2.   喫霞仙史
  3. 六々楼頭遇美人。愁容可掬涙沾巾。殷勤嘱我煩伝語。道是蕭郎薄倖人。
  4. 蕭郎は誰と尋ねしに只 an animal とのみ答申候再ひ鴨と鮭の区別を問ひ候何れ二種の内と存候
【口語】
  1. ○戯れに柳月両先生に寄せる
  2.   喫霞仙史
  3. 六々楼の頭美人に遇う。愁容掬うべく涙巾を沾(ひ)す。殷勤にして我を嘱す煩らいの伝語。道是れ蕭郎、薄倖の人。(六々楼のお頭が美人に遭遇した。憂いに曇ったお頭の顔は救いをもとめているかのようで、涙が袖を濡らしていた。自分の代わりに自分の思い悩むところを伝えてくれるよう丁重に頼んだ。道に立ちつくす蕭郎は薄幸な人だ。)
  4. 蕭郎とは誰なのかと尋ねられて、ただ an animal とのみ答えました。つぎに鴨と鮭の区別を問われまして、どのみち二種のどっちかだと思う、と答えました。
【メモ】
40
【原文】
  1. ○寄濯娘
  2.   多喜子
  3. 生憎氷老妬情縁。香夢無端忽杳然。莫説蕭郎在天外。旅魂泊月柳橋辺。
  4. 自註云かく書してヘルニ贈ラントス恨ラクハシー解セサルヲ
【口語】
  1. ○濯娘に寄せて
  2.   多喜子
  3. 生憎、氷老情縁を妬む。香夢端無く忽ち杳(よう)然。説く莫かれ、蕭郎の天外に在るを。旅魂月に泊る柳橋辺り。(あいにく縁結びの氷老が恋仲を妬んでいるのだが、香しい夢は果てしもなく、たちまち遠大となるものだ。だから、蕭郎が天外の地にいるのをあれこれ言ってはいけない。旅する魂が月に泊まっている様子が柳橋辺りから見える。)
  4. 自註には「こう書してハー(her)に贈ろうと思う。恨ましいのはシー(she)が(日本語を)理解できないことだ」とある。
【メモ】
41
【原文】
  1. ○答多喜子
  2.   濯娘
  3. 好因縁似悪因縁。雁北燕南心悵然。人道蕭郎甚薄倖。別来夢落阿誰辺。
  4. 自註云蕭郎多情ニシテ油断カナラヌ
【口語】
  1. ○多喜子に答えて
  2.   濯娘
  3. 因縁を好むは因縁を悪むに似たる。雁は北へ燕は南へ、心は悵然たり。人道の蕭郎、甚だ倖薄。別来の夢落つ、誰の辺り。(因縁を喜ぶのは因縁を憎むのに似ている。雁は北へ飛び、燕は南へ去る。その姿を見るにつけ、心は嘆息を禁じ得ない。人間たる蕭郎は甚だ薄幸だ。離別の夢が落ちたのは誰かさんの辺りなのだ。)
  4. 自註に云う、蕭郎は多情で油断がならない
【メモ】
42
【原文】
  1. ○対語新聞 日本千八百六十五年五月
  2.  abcをしらぬおやじゲレートマストルヲ縛らんと欲す
  3.  芝居をそこねし婆ばあ木戸番を殺さんと謀る
  4.  息を切て仲どん四分一をみがく
  5.  夜を深してねへさんバスを闘はす
  6.  大蓋を怒ておいらん始て木登りをなす
  7.  藪医者をやめて坊さん新に竹細工を習ふ
  8.  一つかみのぬか能く鬼の目をつぶし
  9.  一疋の蚊たくみに亀の甲を奪ふ
【口語】
  1. ○対語新聞 日本千八百六十五年五月
  2.  abcを知らないおやじ、グランドマスターを捕縛したがっている
  3.  芝居を見損ねた婆ァ、木戸番を殺そうと謀っている
  4.  息を切らした仲どん、四分一をみがく
  5.  夜更かしして姉さん、バスを闘わせる
  6.  大蓋を怒らせて、おいらん初めて木登りをなす
  7.  藪医者をやめた坊さん、新たに竹細工を習う
  8.  一つかみのぬか、しばしば鬼の目をつぶす
  9.  一疋の蚊、たくみに亀の甲を奪う
【メモ】
43
【原文】
  1. ○述懐
  2.   早樹
  3. のうきふし茂き世の中をよそにのみして澄る月影
  4.   仝
  5. 江東第一風流地。涼宵時擁夫人。(評曰時当作須、或云作未稍可)
  6.   小逋仙
  7. 江東第一風流地。第一才名属阿誰。
【口語】
  1. ○述懐
  2.   早樹
  3. つらいことの多い世の中をよそに、月影が澄んでいる
  4.   同じく
  5. 江東第一の風流の地、涼しき宵時に竹夫人を擁く。(評に曰く、時、当に須を作らんとす、或いは云う、未だ稍ならざるを作るべし)(すみだ川東岸のもっとも風流な場所で、涼しい宵時に竹夫人を擁く。(評に曰く、このひとときが暫く続こうとしている。或いは、まだ始まったばかりだ。))
  6.   小逋仙
  7. 江東第一の風流の地、第一才名は誰に属すか。(すみだ川東岸のもっとも風流な場所で、もっとも才知あるのは誰なのだろう。)
【メモ】
44
【原文】
  1. ○唯好ぬしのもとより五月雨の降りつヾきしころかきくれて晴ぬ思ひと聞えし御返し
  2.   学子
  3. 五月雨もいつしか晴てすむ月の光をみかく和歌の浦人
  4. と祈りよろしく
  5. 唯好謹而白ス至極むまきはなしの様に候へども六十あまりの老宮娃御推もしヽヽ
【口語】
  1. ○五月雨が降り続いていた頃、唯好主のとこから手紙をもらって、心が晴れない様子なのにたいしての返信
  2.   学子
  3. 五月雨続きの天気もいつのまにか晴れとなり、澄んだ月の光が降りそそぐ。そして和歌ノ浦の人がその光をいっそう輝かしいものにする。
  4. と祈りのように
  5. 唯好さま、謹んで申し上げます。うますぎる話のようではありますが、六十あまりの老宮娃の老婆心をどうぞお察し下さいませませ。
【メモ】

表紙へもどる

Copyright (C) 2002-2003 MyogaMaru. All Rights Reserved.