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花月新誌題言

凡例
【原文】
  1. 花と云ふ、何ぞ必しも梅杏桃李を問はん。
  2. 月と云ふ、何ぞ必しも朏望明魄を論ぜん。
  3. 夫の紅楼解語の花。青衫筆端の花。亦是れ絶艶の人を動かすもの有り。
  4. 才人方寸瑩々の月。静女奩台団々の月。亦是れ清煇の人を照すものに非ずや。
  5. 然らば則四時各処何くに往くとして花月ならざらん。
  6. 瓊筵以て開く可く。羽觴以て飛ばす可し。
  7. 是れ花月新誌の作る所以なり。
  8. 友人櫻井敬三客歳官許を得て花月社を開き。将に以て花月の情事を海内の才子に商量せんとす。
  9. 敬三素より社主たりと雖ども。生計の繁忙なるを以て余に託して其事を督せしめ。仮りに本局を朝野新聞社の一隅に設く。
  10. 余や性太だ疎懶。且既に朝野社に長たり。何ぞ能く負荷に堪んや。
  11. 然りと雖ども坐花の興。酔月の遊に至ては。四十年来宿因未だ了せず。
  12. 夫の天香国色玉蟾金龍の余が前に現出するに当ては。焉んぞ饞涎三尺ならざるを得ん。
  13. 乃ち千里書を飛ばして之を老友菊池三渓翁謀る。
  14. 翁も亦同病相憐むの人。欣然斯の学を佳とし。一臂以て相扶るを許るす。
  15. 余更に磐渓甕江諸名流に迫り。其錦嚢の秘蓄を奪ひ来り以て江湖に衒せんとす。
  16. 亦是れ昇平の一楽事ならんか。
  17. 然れども余や既に社主の委託を得て其事を督す。
  18. 故に採録する所ろ亦唯だ余の好む所ろに従ふのみ。
  19. 世の斯誌を観閲する者。請ふ之れを詩文集視すること莫れ。
  20. 又之れを新聞紙視すること莫れ。
  21. 道徳家は之を諧謔【おどけ】と嘲り。軽躁家は之を陳腐【ふるし】と罵るも。亦敢て顧慮する所ろに非ず。
  22. 果して其の真情趣を識らんと欲する者有らば。扁舟を墨江に棹さし孤瓢を東台に提げ。往て花神と月娥とに問へ。
  23. 明治十年春王一月 濹上漁史柳北識
【口語】
  1. 花といっても、どうして梅杏桃李の類だけを問題とする必要があろうか。
  2. 月といっても、どうして三日月の姿とその明るい光だけを論じる必要があろうか。
  3. 楼閣の美女の花や、若者の文筆の花にもまた、禁欲者を揺り動かす花がある。
  4. 詩歌に秀でた人の心の中で輝く月や、しとかな女が鬢台の鏡をのぞきこむその円い月もまた、清らかな輝きを放つ人を照すものである。
  5. したがって、いつどこへ行ってもあるのは花月なのである。
  6. 会を催し、杯を交わそうではないか。
  7. これが花月新誌を創刊した理由である。
  8. 友人の櫻井敬三が昨年官許を得て花月社を開き、花月のなんたるかを世間一般の有識者に問おうとしたのである。
  9. そもそも敬三は社主とはいえ、生業が繁忙なのを理由に花月社を余に託し、運営を任され、仮に花月社本部を朝野新聞社の一隅に設けた。
  10. 余は甚だいいかげんでなまけものな性分で、それに既に朝野新聞社の社長でもある。どうしてさらなる負荷に堪えられようか。
  11. そうはいっても、花見や月見の遊興については、四十年も呑んだというのに未だ前世の因果が断ち切れない。
  12. この世ならぬ香りの牡丹に金の龍のような月が余の眼の前に現れたなら、どうして垂涎が三尺を下まわることがあろうか。
  13. 早速手紙を出して千里むこうの老友・菊池三渓翁にこれを相談した。
  14. 翁もまた余と同じ遊興の病もちで、互いに憐むような人である。この問題に取り組むのはすばらしいことだ、喜んで助力する、と言ってくれた。
  15. 余はさらに大槻磐渓、川田甕江ら諸名文家に迫って、その頭の内に隠し持つ見事な着想を奪い取ってきて、世間一般にひけらかそうとした。
  16. さて、これは天下太平の世ならではの愉快な試みとはならないだろうか。
  17. しかし余は既に、社主から花月新誌を一任されている。
  18. よって、何を採録するのかについては、ただ自分の好みに従うだけである。
  19. この雑誌を観閲する人にお願いだが、どうか詩文集だと思わないでいただきたい。
  20. また、新聞紙だとも思わないでいただきたい。
  21. 道徳家はこの雑誌を「ふざけている」とあざけり、そそっかし家はこの雑誌を「古くさい」と罵るだろうが、そういう声をわざわざ気に掛けたりはしない。
  22. 果たして、真の情趣を知りたい者がいるならば、小舟を隅田川に浮かべ瓢箪の柄杓を東叡山に掲げ、路中の花の精と月の仙女に尋ねてみなさい。
  23. 明治十年春、一月 濹上漁史柳北著
【メモ】

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