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間違いを見つけた有識者のみなさま、こちらまで御一報いただければ幸いです。
- 凡例
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- 初出は花月新誌一号(一八七七(明治一〇)年)です。
- 底本は「雑誌叢書6 花月新誌 第一巻」(一九八四(昭和五九)ゆまに書房)です。
- 原文に改行はありません。※読点(“。”)はあります。
- 原文は漢文です(レ点、一二点付き)。
- 原文の仮名はすべてカタカナです。
- 変体仮名はふつうの仮名に、旧字体は新字体に変えています。
- 原文のルビは【 】で囲んで表記しています。
- 難読字は( )で囲んで表記しています。
- 【原文】
- 艶莫艶於花。
- 而韶光九十。動多風雨。
- 清莫清於月。
- 而団円無欠。一歳止【ただ】十二回。
- 除去陰霾薄蝕。所余幾夕。
- 是故。春宵一刻。抵千金之尊。
- 揚州無頼。跨二分之明。
- 若夫西苑揺落。剪綵綴英。方丈説法。天女現身。
- 嫦娥窃薬。呉剛斫佳。
- 青樽緑酒。尋春於酔郷。銀燭書画屏。身拠不夜城。
- 則王者仏者仙者富貴者流之事。而非吾輩所与焉。
- 嗚呼欠陥世界。孰能手握如意珠。
- 唯文人才子。藻葩燦然。筆有光采。
- 余嘗賦廿八字。贈成島君。
- 曰。潤筆銭充買笑銭。秋波春月入新篇。
- 載将艶福兼【と】清福。人在垂楊柳北船。
- 若謂余言不信。請視之花月新誌。
- 甕江客漁剛撰
- 【読み下し文】
- 艶は花より艶なるは莫し。
- 而して韶光九十、動(やや)もすれば風雨多し。
- 清は月より清なるは莫し。
- 而して団円欠くる無き、一歳ただ十二回。
- 陰、霾(ばい)、薄、蝕を除き去る、余す所幾夕。
- 是れ故、春の宵の一刻、千金の尊に抵す。
- 揚州の無頼、二分の明に跨る。
- 若し夫れ西苑に揺落すれば、剪綵英を綴り、方丈法を説き、天女身を現す。
- 嫦娥薬を窃み、呉剛桂を斫(き)る。
- 青樽の緑酒、春を酔郷に尋ねて、銀燭画屏、身は不夜城に拠る。
- 則ち王者、仏者、仙者、富貴者流の事にして、吾輩の与する所に非ずや。
- 嗚呼、欠陥世界、孰(いず)れか能く手に如意珠を握らん。
- 唯だ文人才子のみ、藻葩燦然、筆に光采有り。
- 余、嘗て廿八字を賦し、成島君に贈る。
- 曰く、潤筆銭は買笑銭に充つ、秋波春月は新篇に入る。
- 将にもって艶福、清福とを載せ、人は垂楊柳北の船に在り。
- 若し余の言を信じずと謂わば、請う、之を花月新誌に視よ。
- 甕江客漁剛撰
- 韶光 --- 「しょうこう」。のどかな春の日差し
- 霾 --- 黄砂。私のかつて住んでいた下関では本当に空が黄色かった。
- 揚州無頼 --- たぶん、揚州(今の南京あたり)の無頼漢が主人公の昔話「皮五辣子」を指している(未調査)。
- 二分 --- 文脈から言って、春分・秋分の二分ではなさそう。十五夜マイナス二(分)=十三夜、と解釈してみた。
- 剪綵 --- 色糸や絹布の造花。
- 英 --- 花。
- 方丈 --- 住職。
- 嫦娥窃薬 --- 嫦娥(じょうが)は夫の羿が西王母から得た不死の薬を盗み飲み、仙女となって月宮に入った。そこから「嫦娥」は月の異称。
- 呉剛斫佳 --- 木こりの呉剛は仙人になりたいと思っていた。そこで天帝は呉剛を月宮に上げ、月にある桂の木を切り倒せたなら仙人にしてやろうと言った。呉剛は何度も木に斧を入れるが、切り口は自然に塞がってしまい、切り倒すことができない。どうしても仙人になりたい呉剛は、今なお月で桂の樹に斧を入れ続けている。月にある黒い影はこの呉剛の影なのである。
- 如意珠 --- =如意宝珠。あらゆる願いを叶える不思議な珠。衆生を利益すること限りないことから仏や仏説の象徴とされる。
- 藻葩 --- 藻の花。藻は夏に水面に小さい花をつける。
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| 藻の花 |
- 廿八字 --- 七言絶句。花月新誌同号掲載『柳橋新誌三編序』末尾の「川田甕江云」以降がそれと思われる。ただしここでは七言絶句の形式ではなく、二十八字でもない。
- 秋波春月 --- 「秋波(しゅうは)」は色目、「春月」は雅びな姿。
- 垂楊 --- しだれ柳。柳橋そばの柳を指すか。
- 【口語】
- 花より艶なるものはない。
- そして、のどかな春の陽射しの日は十のうち九が、ややもすれば風雨の多い日である。
- 月より清なるものはない。
- そして、真円の欠けるところのない月が見れるのは、一年でたったの十二回しかない。
- 陰雨、黄砂、曇天、月蝕の日を除くと、残るのは幾日もない。
- こういうわけで、春の宵の一刻というのは、千金の尊さに相当するのである。
- 揚州の無頼が、十五夜に跨って二の月光を隠している。
- もしこの十三夜の光が園の西に揺れ落ちたならば、色とりどりの絹糸は花に編み上げられ、和尚は法を説き、天女は身を現すことであろう。
- 嫦娥は薬を窃んで月に逃れ、呉剛は月にて桂を切る。
- 極上の樽の極上酒と、春をひさぐ女とを夢酔い心地の中に尋ね、右に銀燭、左に画屏風、この身は不夜城に拠りかかる。
- こういったことは王者や仏者、仙者、富裕者、貴人のやる事であって、わが輩のような者には関わりのないことだ。
- ああ、この欠陥だらけの世界で、いったい誰が手に如意珠を握って思い通りにやってのけるのだろうか。
- それはただ文人才子のみである。藻の花は燦然と輝き、筆は光采を放っている。
- 余はかつて七言絶句を賦し、成島君に贈った。
- そのとき成島君曰く、「原稿料は買笑代に充てて、流し目の雅びな女は柳橋新誌の新篇に入れるつもりだ」。
- まさに、女にもてる幸せと精神的な幸せとを両方載せて、いつの間にか人々はしだれ柳そばに停泊する柳北の船中にいるのである。
- もし余の言葉を信じないというのならば、どうか、花月新誌を開いてその目で確かめていただきたい。
- 甕江客漁剛撰
- 【メモ】
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- 故・前田愛氏の論文では、川田甕江のことはあまりいいように書かれていません。明治前半期の漢詩檀において、出世街道を邁進する甕江は、詩の内容よりも世間での地位を重んじる森春濤グループ内に位置しており、そこでは俗悪な漢詩が平気でまかり通っている。とまあ、短絡的にまとめれば以上のようになります。
- そんな川田甕江が、こともあろうに花月新誌の記念すべき第一号の巻頭言を飾っています。私は単純に不思議に思い、また、前田氏の論はもしかすると近代と旧幕の対立図式に過剰反応しているのではないか、との疑念も生じたため、とりあえず読んでみることにしました。
- たしかに甕江の文は、神話の世界をちりばめて流麗ではありますが(でも、ちょっとやりすぎ)、柳北の文と較べて諧謔味に欠けています。
- ただし、この文に関する限りでは「俗悪」とは言えません。
- 花月新誌の復刻版を手に入れてまず驚いたのが、執筆陣の多彩さでした。俗悪のドン・森春濤も数多く寄稿してますし、それに対立する旧幕世界のドン・大沼沈山もまたしかりです。
- これは柳北が人並みはずれて友好術に長けていたからではなく、花月新誌的な世界の対極に位置する薩摩郷士の野卑粗暴な世界に反感を持つ文人たちが、大同小異で結集した結果なのだと思います。明治政府vs旧幕派、という図式は、文壇に限って言えばアナクロなだけです。
- とまあ、そんなことを思いました。
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